飼い犬にかまれ続けて

勝手気ままにライトノベルの感想を書いています。

「俺が生きる意味3 水迷宮のデモニアック」感想

俺が生きる意味 3 水迷宮のデモニアック (ガガガ文庫 あ 9-4)

〈あらすじ〉
葦原第二高校の惨劇から二週間。自責の念とトラウマに苦しむ斗和は、彼を元気づけようとする妹の一花と中学時代からの友人・天音川銀河によって、半ば強引に水族館に行くことになる。そしてアインズヴァッハの門をくぐった殺人鬼が、正体を隠して一花の命を脅かすことに……。果たして誰が殺人鬼なのか!? 人喰いの化け物が徘徊するなか、妹を救うための「鬼ごっこ」が開演する。絶望が絶望を呼び、予想を遙かに超えた展開! この驚愕は肺腑を押し潰す!!

物語もそうだけど、キャラクター作りにも身震いする。人間の二面性が炙り出される作品だけにキャラクター描写が更に物語の濃度を上げ、読者の肌を粟立たせる効果を発揮する。

閉鎖された学園で起きた惨劇から生き残った斗和。しかし後悔ばかりが波のように押し寄せて斗和の心を責め立てる。妄想にしか聞こえない言動が災いし、学園内から遠巻きにされるばかりか直接的な暴力まで振るわれる斗和は、それでも自らの行動を改めるつもりはなかった。好きになりそうだった女の子、そして見捨ててしまった人達のためにも……。
そんな斗和を見兼ねた幼馴染の天音川銀河は気分転換に水族館に誘う。最初は行くことを拒んだ斗和だったが、妹の一花にも誘われたことから水族館に赴くことになる。そこが新たな惨劇の場となることも知らずに……。

舞台を学園から水族館へと移す。
今回、人喰いたちに襲われるのは斗和を除き新しい面々。メインヒロインとして登場する銀河、脳みそまで筋肉で出来ていそうな妹の一花、その友人の真湖、水族館で出会うことになる大学生たち。そして斗和の妄想のような体験談に怒り、軋轢を生んでしまった同級生の笠根木。

物語序盤、笠根木との衝突以外は前回の凄惨な展開が嘘のような日常が進行していく。異能力と人喰いについて知っているらしい神悠言との接触も含めて何処か緊張感がない。いや、これは嵐の前の静けさ、という奴なのだ。

後悔に苛まれる斗和は再び人喰いのいるあの世界に放り込まれる。前回を教訓に、逃げるべきところが逃げ、戦うべきところでは戦う。心を凍らせて、手の届く人以外は救えないと切り捨てる。だが、そう簡単に行くはずがない。

人智を超える異能力を持つ人喰い以外にも…ある意味では人喰いよりも恐ろしい化け物が、水族館には存在した。殺人鬼。人を殺すことを楽しみ、斗和の大切な人を奪おうと行動を開始する。人の群れの中に潜み、斗和を苦しめようと心の中で笑う化け物。人喰いだけではなく、殺人鬼の相手までしなくてはならなくなった斗和の「戦い方」は、まともな神経で行えるものではなく、反発を生む。笠根木に前回の斗和の姿が重なる。だがこの世界で何かをやり遂げようとすると、途端死角から大事な何かを奪っていくのだ。斗和はそれを痛いほど知っている。

勇敢な大学生たちと協力しながら襲い来る死と戦い続ける斗和たち。徐々に人喰いたちの異能力を暴きながらも、倒すまでには至らない。そんな中で目覚めた銀河の異能力は、無敵に思えるが、想像通りろくなものではなかった。軋み上がる銀河の心はこの惨劇の中で砕け散らずに駆け抜けられるのか……?
冒頭を思い起こし、ミスリードに誘われていたことに気づく読者。ついに姿を現した殺人鬼を前にして、怒りを爆発させる斗和。この殺人鬼と『師匠』、人喰いたちとの関係とは一体何なのか……分からないことだらけだ。

人が次々死んでいく。
青美空さん、アンタ、ほんと良い男だったよ…!